爪
20年治らなかった爪噛みの癖を吐きながら治して、やっと人並みに爪が伸びて、嬉しくて、マニキュアを塗って、出社した。
ピンクベージュの上に偏光のオレンジラメを重ねていただけだった。
先輩に「まあそれくらいならセーフだよ」って言われて、爪を隠した。
せっかく、あのみっともない爪から抜け出したのに、また爪を隠してしまった。
偏光オレンジのラメのマニキュアは捨てた。
今はもうピンクベージュの肌馴染みのいい色しか塗っていない。
誰にも見咎められない。目立たない。それがいい。
目立たなければ、私が私だけを見ていられる。好きでいられる。
目立ちたくない。他人から感想をもらいたくない。とくに悪口は聞きたくない。
せっかく好きになったのに、また嫌いになりたくない。
今日もマニキュアを塗りながら思い出してしまった。
てめえのせいでよ、爪に関する嫌な思い出が増えただろうが。